中小企業とガバナンス

経営コンサルタントコラム

2017年9月30日

■株主とはなんだ?

 

会社は一体誰のものなのでしょう?

社長のもの、株主のもの、社員のもの、地域のもの、社会のもの、いろいろあるとは思いますが、「誰のもの=所有」とすれば、これは間違いなく株主のものです。

 

そもそも会社とは何かというと、会社法では、「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。(会社法2条1項)」とされています。その中で、出資者から出資を受けるについて、当該会社の株式を付与する会社を株式会社といいます。

 

合名会社、合資会社、合同会社は持分会社といって、会社の持分を社員が持つ会社です。(ここでの「社員」は通常意味する従業員としての「社員」ではなく、会社の員(加わっている人)という意味です。)

 

合名会社の場合は、この社員さん全員が無限責任を負います。

合資会社の場合は、社員さんの一部を無限責任、その他を有限責任社員とします。

合同会社は、社員全員が有限責任社員となります。

 

株式会社は、株式の引受価額(出資分)がその責任の限度とされています。

会社が潰れても、出資分が無くなるだけでそれ以上の責任は問われないわけです。

 

無限責任となると、例えば会社が潰れて負債が返せなくなった場合、その「社員」も負債を返済する義務を負うことになります。すごく重い責任ですね。

 

一方、有限責任はというと、文字通り出資の範囲でのみ責任を負えば良い、ということになります。株式会社と同じですね。株式会社との違いは、出資に対して株式を与えるかどうか、です。

 

株式というのは、昔は株券の発行が原則でした。

株券を持っている人が株主ですから、株券を譲り受ければ株主になれます。

株主の地位が株券という株式を使って比較的簡単に移動できるわけですね。

 

会社の価値が上がれば株式の価値も上がります。価値が上がれば欲しいという人も現れてきます。欲しいという人にパッと売れる方が取引としては良いですよね。

 

つまり、株式は譲渡が前提の仕組み、取引されるための仕組みです。

 

一方、合名会社等の持分会社は譲渡は株式ほど簡単ではありません。譲渡前提の会社ではないのですね。なので上場というのはありえない会社になります。

 

■譲渡制限なら株式会社である意味はない

 

ですが、株式会社でも株式の譲渡を制限している会社があります。

譲渡禁止はその会社の定款で定めれば良いわけですが、株式の譲渡を制限した場合、譲渡したい場合は役員会の承認が必要になります。日本の中小企業のほとんど全てが、この譲渡制限会社です。

 

いや、そもそも株式会社は株式を譲渡するための仕組みなのだから、譲渡を制限したら株式会社である意味がないんじゃないか?という疑問が湧きませんか?

 

そうなのです。

 

株式会社という形態が譲渡すること前提であるわけですから、譲渡を制限している(そういう前提だから禁止ではなく制限なのでしょうが)、制限したいような会社運営をしていきたいのであればそもそも株式会社である必要性はありません。譲渡制限するなら株式会社にする意味はありません。

 

昔は有限会社という会社形態がありました。譲渡制限する場合は株式会社でなく有限会社でよかったわけです。ただ有限会社法は廃止されまして、基本的にすべてこちらは株式会社となりました。

 

本来的には譲渡性の相違で会社の形態を選択すれば良いわけですが、どうしても資本金要件(株式会社は1000万、有限会社は300万)の違いで、小さい会社は有限、ちょっと成長したら株式会社、というような「有限<株式」的イメージがあり、積極的に有限会社を選択しない環境でした。

 

また、株式会社の資本金要件が撤廃(1円でもOK)され、資本金で差をつけることができなくなったこともあり、有限会社は姿を消しました。(今残っている有限会社は特例有限会社と言って、有限とは名が付いてますが、実は株式会社です。)

 

しかし、そもそもは譲渡性を有しなくても良いような会社形態はやっぱり必要なわけで。

 

海外ではLLC(Limited Liability Company:リミテッド ライアビリティ カンパニー。有限責任会社)という制度があること等を鑑み、持分会社中の社員全員が有限責任の会社である合同会社の設立が可能となりました。今いまの有限会社は合同会社、ということになります。

 

株式を譲渡することのないような、つまりは譲渡制限をかけるような会社は株式会社である必要はありません。有限責任であることはリスク上必要でしょうから、合同会社でいいわけです。

 

また、株式会社の特長として、所有と経営の分離、ということがあります。

 

所有者(株主)が替わることが前提の会社ですから、経営も一緒に替わらないよう分離されています。つまり、株主=代表、ではないのですね。

 

合同会社や合名会社などの持分会社は、出資者=社員(株式会社でいうところの取締役)で、所有と経営が一緒になっています。

 

■ガバナンスとオーナーシップ

 

とはいえ、日本のほとんどの中小企業は、株式会社で100%株主が代表者という、オーナーが社長というパターンです。所有と経営が分離してないわけです。株式も譲渡制限がかかっていることが多いです。(ほぼ100%かも)

 

ということは、所有と経営が一緒で、かつ、異動しない、ということを意味します。まったくもって株式会社である必要はありませんね(苦笑)

 

 

所有と経営が一致していると、何やったっていい、という思考につながりやすいものです。

よく聞く、「所有者は社長たる自分なのだから、リスクは自分が負っている。だから好きにしていいのだ。」という理屈です。

 

好きに経営して潰したらオーナー社長は自分の責任だしまあ仕方ない、ですが、職を失う従業員さんはうかばれませんね。従業員さんはリスクに見合う給料など得ていませんし、どうしても経営者に翻弄されてしまう、損な役回りに陥ってしまいます。

 

そもそもそういう会社には勤めるな、ということも言えるでしょうが、株式会社の場合は外面的に100%オーナーかどうかの見極めはできません。登記簿に株主構成は載りませんから。

 

合同会社と名乗っていれば、まあそういう会社かもしれないね、という予想も働きますが、ほぼすべての会社が株式会社ですからこれも難しい話です。就職面接で資本構成は?とか聞けませんしね。上場企業に勤める以外にそういう好き勝手経営からの倒産・失職リスクからは逃げられません。

 

さて、何が言いたいかというと、所有と経営が一致していると、倒産リスクが高まりますよ、ということです。要はガバナンスが効いてないわけです。株主が社長ですから、経営を監視する人がいないのですね。

 

人間誰しも間違いは犯します。失敗しない人、全ての判断をパーフェクトに行える人などいません。その前提に立った組織運営をしていかないと倒産リスクが高まることになります。

 

上意下達なワンマン経営は成長のスピードを速めることにも繋がりますが、一歩判断を間違えれば変更が効きません。攻めに強く守りに弱い組織になります。守りに弱いわけですから、倒産リスクも当然高いことになります。また、他人の意見が入ってこない組織というのは多様性に欠け、変化に弱い組織になります。

 

株式会社には取締役会という機能があります。取締役が3人いれば取締役会設置会社になることが可能です。経営に重要な事項は取締役会の多数決で決めることにより、経営に対する相互監視を行うことができます。ひとつリスクを軽減できる方法です。

 

しかし、取締役は株主総会の承認がなければ就任できませんし、株主がNOといえば解任だってできます。つまり、オーナーさんの胸先三寸でどうにでもなってしまう仕組みです。気に食わない意見を言うヤツはクビにできちゃうのですね。

 

そのような状況では誰も反対意見など述べないでしょうから、本質的にリスク回避できているかといいうとそうではありません。

 

更にいうと、取締役会を設置していない会社もあります。この場合は代表取締役が重要な経営判断を社長一人でできます。取締役の意見を聞かねばならない(イコール役員会を開かねばならない)義務はありません。オーナーシップも持っているとするとまさに「朕は国家なり」的なワンマン体制ですね。

 

「だからそのリスクは所有者であるオーナー社長さんが負っているんだから問題ないだろう」という意見もあるでしょう。

 

たしかにそうです。が、潰れて最も困るのはオーナー社長さん自身です。社長業をやっていて一から従業員で働ける人がどれほどいるでしょうか。たいていはタクシー運転手さんとか掃除夫さんとかあまり会社組織内部で働くような仕事以外の仕事に就かれています。(かく言うご職業が勧められない、という意味ではありません。社長業との落差という意味での例示です。)

 

天に唾吐きゃ自分に返る、わけですから唾が顔にかかりたくなければ吐くのをやめるのが自分のためにも得策です。つまり、誰かしから耳痛い意見を聞かねばならない状況を作っておいた方が、倒産リスクを下げられますよ、他人の意見に耳を傾けた方が得ですよ、という話です。

 

株式は過半数持つべき云々などナンセンスです。自分にありがたい意見を言っていただける人が多くいて、しかもある程度の賛同を得なければいけないとなれば、慎重になります。

 

スピード感が無くなるという意見の方もいますが、判断にスピードが必要かどうかの判断も正しいかどうかわからないから他人の意見が要るのです。

 

■自分に箍(タガ)をはめる

 

人間はいろいろな政治体制を経験してきました。

今現在一番繁栄しているのは民主的な国家です。

ヒトラーやムッソリーニしかり、ソ連や東欧共産圏しかり、独裁体制はいずれ崩壊する運命です。

 

一人の有能な人材に頼っても結局間違いを犯し、軌道修正できず崩壊していくのは人類の歴史上明らか、普遍のものでしょう。所有経営一致のワンマン体制も独裁です。歴史を参考にしても生き残れる体制ではありません。

 

独裁は拡大も縮小もスピード感抜群、つまり、社長が判断を間違えた瞬間に会社は終わります。

更にいうと、独裁を維持しつつも誤った判断を避けるためには、自分を裸の王様に仕立てようとする輩と対峙しなければなりません。イエスマンばかりの取り巻き連中は経営にとって何の役にも立ちません。むしろいるだけ悪です。

 

しかし、かく言う輩の甘言はとても気分のいいものですから、自分に箍をはめ、頚木をかけるのは並大抵のことではありません。なにせ甘言は心地良いのです。

 

さて、それでは会社を倒産のリスクから遠ざけるためにはどうすれば良いか。

 

株式会社であれば他人に株式を持ってもらうことです。そして社長自身もその過半数を持たないことです。自分の意見に同意してくれる株主がひとりでもいなければ事が前に進まないという状況を株主構成を以て作っておくことです。

 

取締役会を設置する程度では意味がありません。

先にも申した通り、取締役を選任・解任するのも株主だからです。

株主構成をいじらない限りは逃げ場が出来てしまいます。

 

経営にスピードも大切ですが、アクセルがあればブレーキもなければいけません。

決して楽な方法ではありませんが、信頼できる方に株主になっていただき、意見をいただけるような環境を整えることは大切と感じます。

 

実務的には普通株式のみならず、種類株式やストックオプション(潜在株)などの活用も検討し、所有面のカバーの仕方も工夫ていくことになろうかと思います。

 

イメージとしては、所有と経営の間に意思決定の機関を別に設ける感じです。所有・経営・決定の三権分立とでもいいましょうか。これなら従来通りの所有は維持したまま、意思決定リスクを回避する(裸の王様化を防ぐ)ことが可能でしょう。

 

自分に箍(たが)をはめるような話で、簡単ではないのは容易に想像できます。

が、裸の王様や独裁者になりたくなければオーナー社長自身で手を打つしかありません。

事業継続性を維持するためにはどうすればいいか、一度考えてみませんか。